映画『道』(1954年)のレビュー考察&感想!~懐古的名作ロマンに浸ろう!~

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映画レビュー

はじめに・・・

今回は「懐古的名作ロマンに浸ろう!」をテーマに、イタリア映画の巨匠フェデリコ・フェリーニの名作『道』を考察レビューしたいと思います。
選択の余地なき運命に導かれ、必然的に出逢った不幸な男女。
2人が歩むのは途方に暮れるほど長く、手遅れなほどに短い人生の道。
振り返ってみれば「幸せだった。」と思える人生シーンってありますよね。
大事件ほど忘れ去り、当たり前だった時間ほど愛おしさを感じる。
そんな感覚を掘り起こしてくれるのが、今回紹介する映画『道』なんです。

映画『道』(La Strada)あらすじ

ある日、人里離れた貧しい大家族の元に一人の男が現れる。
以前、母との金銭交渉で長女ローザを連れ去った大道芸人ザンパノ。
何かしらの理由でローザが亡くなり、その穴埋めで別の娘を催促しに来たらしい。
やむなく母が取り引きしたのは、発達障害を抱えた天然少女ジェルソミーナ。
家事も料理も出来ない役立たずだけど「言いなりの純情娘」だということをアピールし、お金と引き換えに手放した。
あざとい泣きマネで送り出されたジェルソミーナ。
意気消沈のままザンパノの車に乗り、妻となり、ピエロ芸を叩きこまれる。
ジェルソミーナの天然に振り回されるザンパノと、女癖も口も悪いザンパノに傷つくジェルソミーナ。
2人の旅回りは永遠に続くと思われたが…。

映画『道』キャスト・登場人物の特徴

ジェルソミーナ(演:ジュリエッタ・マシーナ)

ジェルソミーナは、人里離れた貧しい家で育った大家族の二女。
しかし長女ローザが売られて出ていったので、実質的には大家族の長女となります。
母ひとり子沢山こだくさん家族だから色々任される立場なんだけど…発達障害を抱えていて家事も料理も出来ない役立たずなのです。
でも人を笑わせるのは大得意で、子供たちからの人気は絶大。
だけどある日、当たり前だった生活が一瞬で変わってしまう。
姉の悲報と共に家を追われ、乱暴者のザンパノに無理矢理ピエロ芸を叩きこまれ、先の見えない旅を続けることになるのです。

そんなジェルソミーナを演じてるのは、イタリアの演技派女優ジュリエッタ・マシーナ(Giulietta Masina)。
フェデリコ・フェリーニ監督の妻であり、フェリーニ作品の常連俳優。
2人はお互いまだ下積みだった頃(1943年)に知り合ってすぐ結婚し、生涯連れ添ったおしどり夫婦。
そして本作で魅せた哀しき道化・・・・・っぷりは彼女の真骨頂と言べき芸術技で、どこか放っとけないコケティッシュな魅力に溢れてる。
愛嬌と人間臭さの女優、ジュリエッタならではのスーパー・プレイでした。
好き嫌いが大きく分かれるヒロインですが、私的には共感せざるを得ない..というか何なのか…。
イラっとするけど放っとけない的な、深い悲哀を感じさせる<像>として心に映りこむものでした。

ザンパノ(演:アンソニー・クイン)

ザンパノは、強靭な体を持つ大道芸人。
「体当たり芸」は飽きられやすいので、旅回りしてこつこつ生銭を稼ぐ日々を送っています。
でも運よく稼げた日には馴染みのバーに行き、これ見よがしな《豪遊パフォーマンス》を見せつける。
体だけじゃなく、プライドも態度もデカい男なのです。
しかし…知り合い達からは稼ぎの無さや器の小ささを見透かされていて、うっすら馬鹿にされている。
そして妻ははした金・・・・で連れてきた役立たずのジェルソミーナ。
直情型で向こう見ず…だけど成功することへのモチベーションだけは誰よりも強い男。
いい人なのかサディストなのか分からなくなるくらい不器用で、常に矛盾と葛藤・・・・・を抱えてる男なのです。

そんなザンパノを演じてるのはアンソニー・クイン(Anthony Quinn)。
端役時代が長く、劇場で鍛え抜かれたたたき上げ・・・・・の苦労人俳優でしたが、本作の2年前に『革命児サパタ』でアカデミー助演男優賞に輝いており、本作『道』では人生の矛盾に悩みつつ不器用にしか生きられない怪力男を切なく演じあげています。
漢な哀愁がダダ洩れです。
そして、こーゆー不器用な哀愁にめっぽう弱いのが私。
人当たり良く爽やかに♪…とかには全く惹かれませんww。
やっぱりドラマが欲しいのです。

イル・マット(演:リチャード・ベースハート)

イル・マットは、綱渡り芸を得意とする道化師です。
自らの素性や感情を悟られるのが苦手なのか、鉄壁の軽薄男・・・・・・を演じ続けて他人を欺いている。
直情型&不器用なザンパノとは真逆の性格で、プライドなんか捨ててるから世渡りも上手い。
ザンパノとの知り合い暦は長く、これまでも散々馬鹿にしてきたらしい。
犬猿の仲でも大道芸人同士…何とか共存してきた2人でしたが、ジェルソミーナの登場で何かが崩れ始めていく。
綱渡りの如く均衡が保たれていたイル・マットの世界も…。

イル・マットを演じてるのはリチャード・ベースハート(Richard Basehart)。
アメリカ出身のバイプレイヤーで、主演のアンソニー・クインとは1才違いの同年代俳優。
TVシリーズ「原子力潜水艦シービュー号」とか「ナイトライダー(パイロット版)」などに出演してて日本でも人気がありました。
卓越したバランス感覚をもってしても<お調子者の仮面・・・・・・・>を被り続けられなかった人情派奇人イル・マット…。
とても難しいキャラクター像なのに、変幻自在な表情マジックで魅力的に演じあげたリチャード・ベースハートが凄い。
キリキリと胸を刺されるような…何ともグッとくる名演技でした。

映画『道』は日本で初めて公開されたイタリア映画、そしてフェリーニの代表作

ここで映画『道』の背景を…。

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『道』(La Strada)は1954年、本国イタリアで公開されました。
当時の日本はまだ映画館でイタリア映画など観れなかったらしいんですが、3年後に「日本の映画館初のイタリア映画」として劇場公開され、当時ブームを巻き起こしたイタリア・モードと共に話題を集めたそう。(モンドリアン・ルックなどが台頭した頃ですね。)
フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)はネオレアリズモの若き後継者として注目されていました。

『道』のロケ地はイタリアのバニョーレジョ村、フィウミキーノ海岸、そしてチネチッタ。
チネチッタって響き、何か好き。(イタリアで映画都市を意味する造語らしい。(Cinecittà))
私が初めてチネチッタを知ったのは、学生時代に観たフランスのロマンス映画『ア・マン・イン・ラブ』の劇中でした。
チネチッタ映画出演の為にやって来た主人公(ハリウッド・スター)をピーター・コヨーテが演じてて、ヒロインのグレタ・スカッキがやたらと魅惑的でした。
当時VHSビデオに録画して、何度もヘビロテしたものです…。
あ…。話が逸れたww。
フェリーニの『甘い生活』『8 1/2』『山猫』もここで撮影されましたし、あの『ローマの休日』や『ベン・ハー』なんかも撮影された特別な撮影所なんですね。

監督デビューしてから4作目となる本作『道』は俳優陣の抒情演技もさることながら、悲哀たっぷりの脚本、映像美、ニーノ・ロータの甘美な音楽が一体となり高く評価されました。
アカデミー賞でも「外国語映画賞」を受賞。
フェリーニ代表作のひとつとして世界中から愛される映画になりました。

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映画『道』(La Strada)考察・感想 <個人的見解・ネタバレあり>

ジェルソミーナは演技上手!?

主人公のジェルソミーナは、発達障害を抱えた純粋な少女です。
夢見がちで、子供みたく強情なところがある。
そして母親は彼女を「脳足らずで家事も仕事も出来ない、食欲だけは一丁前の金食い虫・・・・」だと思っている。
未熟な母による偏見。

実際のところ彼女は、教えられればその通りに習得・・・・・・・する能力を持っています。
苦労事(子だくさん、貧困)ばかりで、それに気付く余裕も無かった母にとってはお荷物・・・だったけど。

よく見ると、ジェルソミーナは(気付かれないのを良いことに)時と場合によって都合よく《役立たずのふり》を演じてるのが分かります。
「仕事はいいの。芸は好きよ。」と言ってる通り、彼女は自分の好き嫌い・・・・を振り分けて行動してるんです。
母の泣きマネ・・・・よりずっと演技が上手い。
ここでは、それを踏まえた上で映画『道』の考察をしていきたいと思います。

<演技>は高圧的・独善的な母への対抗処置

ジェルソミーナの母は何かしらの理由で夫を失ったらしく、子沢山家庭をひとりで養っています。
計り知れない苦労もあるでしょうが…言葉巧みに娘を売り飛ばす醜態はもはや直視できないレベル。
《泣きマネ》でカモフラージュしてるものの、かなり高圧的・独善的な人間です。
この時の母のセリフから察するに、長女ローザを売り払ったのは彼女が自分に従順じゃなかった・・・・・・・・こと、それと生銭欲しさ・・・・・だけかと思われます。
「役立たずなら、売ってお金にしてしまえ」の魂胆が見え見えです。

ジェルソミーナは姉のように反抗的じゃなかったけど、出来ないフリ・・・・・・で対抗してた。
<役立たずアピール>をし、逆らわずして従わない作戦です。
だから…結果的には母にとってはお荷物・・・でしかない。
なのでサッサと売られてしまいました・・・。

<演技>は自己防衛の手段

出来ないフリ・・・・・・は、その後の人生でも続けていきます。
結局は恋心ガン無視でザンパノに売られてしまったし、回避してきた労働&雑用の強制はもちろん、道化(ピエロ)の強要、そして夜のお供まで…なんでも命じられ、押し付けられる羽目になったから。
あの母・・・よりザンパノの方がよっぽど高圧的でした。
母を欺くための出来ないフリでしたが、売られてからはこれを自己防衛・・・・の手段(やりたくない事はしない手段)として役立てます。
そして、その証拠は各シーンに散りばめられています。(これについては後ほど..。)

男の嫉妬は女より怖い!? 男が守るプライドとは?

怪力男ザンパノのプライド

怪力芸を得意とする大道芸人ザンパノ。
今は貧乏でも必ず成功してやる!金持ちになる!と心に決めてるが、欲望に真っすぐなだけで駆け引きがヘタクソ。
すぐに心を読まれてしまう。
二枚舌で世渡り上手なイル・マットに芸人としてのプライドを汚され、ず~っと苦汁をなめ続けてきた。
だから、従順で何でも言う事を聞く妻ジェルソミーナを連れ歩くのは誇らしかった。
(今や自分は1人じゃない。ジェルソミーナのピエロ芸だって俺が仕込んだんだ!)
しかしながら、ここに来て従順な妻までもをイル・マットに手なずけられてしまいそうになる。

ー燃え上がる嫉妬ー

これまで邪険に扱ってきたジェルソミーナだけど、気が付けば自分にとってかけがえのない存在・・・・・・・・・
になっていた。
芸人として馬鹿にされるより、男としてのプライドを汚される方が強烈に腹立たしかった。
そしてあの事件。
商売道具である怪力が、あろうことか恐ろしい道具に変身してしまったのです。

道化師イル・マットのプライド

人を欺き、不意打ちで笑いを取る名人。道化師イル・マット。
彼はその芸風だけじゃなく、自分自身をも欺いて生きてました。
プライドを封印して賢く立ち回るので、同じ大道芸人でもザンパノよりずっと稼ぎがいい。
人気だってそれなりにある。
なのに妬ましいんです。不器用で滑稽なザンパノが。
(実は)彼を好きでもあると思います。
でも隠したい!悟られたくない!やっちまえ!なんですね。

そんな鉄壁軽薄男だけど、純粋なジェルソミーナの前では自分を隠しきれなかった。
唯一のプライドである《道化師》の仮面を被りきれなかった。
道化であり続けることで生きていられたのに、皮肉にもザンパノの妻ジェルソミーナとの出会いが命取りとなってしまったんですね。
綱渡りも世渡りも器用にこなしてきたけど、ジェルソミーナに心乱され己の均衡・・・・がとれなくなってしまった。

《あのメロディー》が意味するもの ~トランペットの謎と過去ストーリー~

《あのメロディー》が過去を見つける糸口に!

イル・マットがザンパノを汚すのは、ただただ羨ましいだけじゃない。
この2人の背景には、ある過去ストーリー・・・・・・・が見え隠れしています。
キーとなるモチーフはトランペット、そして《あのメロディー》です。
ザンパノのオート三輪バイクに積まれてたトランペット。

ジェルソミーナは、ドラムじゃなくてこのトランペットを練習したかった。
でもザンパノは教えてくれない。(彼はトランペットなんか吹けないから。)
では何故トランペットが積まれてるんだろう…?
気になりながらも解明されないままストーリーは続き、イル・マットとジェルソミーナの初対面シーンになって初めてヒントは示される。
イル・マットは一人っきりのテントの中でバイオリンを弾いてるんだけど、奏でてるメロディーが…傷ついた夜にジェルソミーナがハミングしたのと同じメロディーでした。
歌いながら「雨の日に聴いた曲よ。覚えてる?」ってザンパノに問いかけたんです。
でも2人で曲を聴いたシーンなんか無かったから、このメロディーは過去に他の誰かと一緒に聞き覚えたものだったんだと思われます。
無意識ではあれ、ショックを掻き消す為に思い出したメロディー。
誰にも素顔を見せないイル・マットが、こっそり・・・・一人で奏でてたのと同じメロディー。

トランペットの謎と、知られざる因縁の関係

ある日イル・マットはザンパノへの嫌がらせ・・・・・・・・・・の為、ジェルソミーナにトランペットを教えます。
ザンパノが使いこなせないまま積んでいる、あのトランペット。
すると、ドラムすらちゃんと叩けなかったジェルソミーナなのに…いとも簡単に習得できちゃうんですねww。
本当は器用なんです。(それに、トランペットには何かしらの執着があった。)
もちろん、これを見てしまったザンパノはご乱心です。
妻を寝取られたかのような怒りが沸き上がって来る。
デビュー戦でも客の面前で散々馬鹿にされたし、イル・マットへの怒りが止まらない。

気が付けば、ジェルソミーナの腕前は《あのメロディー》を完璧に吹きこなすまでに仕上がってた。
これまで雑に積まれてたトランペットがどんどん息を吹き返していく。
そこで何となく、彼女がトランペットの教唆を懇願してたシーンを思い出します。
ローザ(姉)には教えたのに、なんで私はダメなの?」とザンパノに詰め寄ってた。
なんでザンパノがローザにトランペットを教えたと思ったんだろう?
それはたぶん、このトランペットが亡きローザの思い出の品であると感じたから。。
ザンパノのせいで恋の痛みを知り、女の勘が働いたように思えます。


あと、こんな事もありました。
ザンパノvsイル・マット大喧嘩の後、ジェルソミーナは突拍子も無く「(イル・マット)はローザを知ってるの?」と聞いていた。
それは、彼女の中でイル・マットが奏でたあのメロディー・・・・・・・姉ローザ、そして<2人の男の因果関係>が結びついたからなのかもしれません。(女の勘)
ザンパノと一緒に聴いたと思い込んでたあのメロディーは、まだ家族が幸せだった頃にローザが口ずさんでたメロディーだったのかも。
(幸せなメロディーを思い出し、悲しみを打ち消そうとした。)
イル・マットがひとりこのメロディーを奏でてるのを見た時、心のどこかで感じた。
2人は恋仲だったのかもしれない…。
ローザにトランペットを教えたのは、ザンパノじゃなくてイル・マット…。
母の独断でザンパノに売られていったローザは《恋の亡骸》であるトランペットを後生大事に持っていたのかもしれない。。
ザンパノはこのトランペットが《恋の亡骸》だったなんて知らず、亡きローザの思い出の品として積んだままにしてる。

だとしたら、ザンパノは(知ってか知らずか)イル・マットが無くしていった恋もプライドも全部手にしてるんですよね。

…あくまでも個人的な見解だけど。

ジェルソミーナが魅せた、等身大の女性らしさ

ここまで語ってきただけでも分かる通り、ジェルソミーナは非常に勘の鋭い頭のいい女性です。
イル・マットと同じ、何かのフリ・・・・・で自分自身を欺いてるだけ。
発達障害特有の子供っぽさはあるけど馬鹿じゃない。
<出来ないフリ>は自己防衛であり、時に現実逃避なんです。
ここでは、そんな彼女がつい見せてしまった等身大の女性らしさ、健気さが分かるシーンをピックアップしていこうと思います。

「外で寝るわ。」

これは旅回りのオート三輪で過ごす夜、いつもと様子が違うザンパノに気付き、彼女が言った言葉。
誰に教わったわけでもないけど、意味ありげな彼の眼差しに気付いた。
「お前の名字を変えてやる」的なことを言われて後部席に誘われたから身の危険を感じた。
心の準備はまだ出来てなかったから。
商売女みたいな扱いはイヤで、ちゃんと恋を育みたかった。
《頑なな拒絶》を示すこの言葉・態度からは「私はそんな安い女じゃない!」という強いプライドが感じられます。

「ザンパノ?故郷はどこなの?」

これは、久々に大儲けして達成感でいっぱいの夜。
羽振りのいいとこを見せつけたかったザンパノが、知り合いが集うバーで「これ見よがしに」大盤振る舞いするシーンです。
意外とグルメで、お腹が減ってても・・・・・・・・美味しい物以外は口にしないジェルソミーナが暴飲暴食ww。
程よく染み入る葡萄酒が心地よく、めちゃめちゃ饒舌になっちゃいます。

「ザンパノ?故郷は何処なの?」
「使う言葉も違うのね。生まれは?」
イイ女を気取ってデート気分♡(どこで覚えたのかww)

でも、ザンパノが急に娼婦を口説き始め…大撃沈してしまいます。
だけどジェルソミーナは笑顔を浮かべ、気丈に振る舞いました。
芸人の妻として。
酔ってたから出来たんです。
シラフなら大騒ぎしてたはず。

香水の匂い

大撃沈した夜、口説いた娼婦を車に乗せ颯爽さっそうと消えていったザンパノ。
「浮気行為をしてるかも」という不安に駆られつつ、道端でひとり朝を迎えたジェルソミーナ。
近所の主婦から彼の目撃情報を聞くや否や、なりふり構わず目的地へすっ飛んでいきます。
車の中をチェックし、地べたに転がってるザンパノに微笑みかける彼女。
「娼婦の姿も無いし信じてよかった♡」くらいのスタンスでニンマリしますが…。

次の瞬間、表情がこわばってドンヨリ顔に。
何故なら…彼の胸に近づき気付いてしまったから。

ー香水の匂いー

激しい嫉妬が沸き上がる。
そして皮肉にも、いつの間にか芽生えてた恋心・・にも気付いてしまうんです。
初恋相手は自分を買った男…。
それ以降、彼と関わる全ての女性と自分を比較するようになってしまいます。

「2人とも悪いのよ。ザンパノ1人じゃないわ。」

これは、ジェルソミーナがちょっぴり母親っぽく言ったセリフ。

これ見よがしにジェルソミーナと仲良くしてザンパノの怒りを買ったイル・マット。
よせばいいのに、怒るザンパノに追い打ちをかけていきます。
歌いながらディスったり、バケツの水を引っかけたり。
相手は怪力男。どう見ても自殺行為です。
これは、いよいよお互いのプライド・・・・・・・・が引けなくなってしまった瞬間でした。

オロオロと泣くしかないジェルソミーナでしたが、ナイフを振り回したザンパノが警察に捕まったことでスイッチが切り変わります。
すぐに釈放され帰ってきたイル・マットに「2人とも悪いのよ。ザンパノ1人じゃないわ。」と塩対応。
その表情は兄弟喧嘩を諭す母親・・・・・・・・・のように冷静です。
サーカスの仲間たちもイル・マットも「逃げるなら彼が捕まってる今しかない、一緒に旅立とう」的に誘ってくれるんですが、どちらにも行かない。
自分の意思でザンパノを選ぶんです。
乱暴だけど、不器用だけど、我を忘れるくらいに自分を愛してくれる男を。
ジェルソミーナは忍耐強く健気、そして情熱的な女性なんですね。
もう<出来ないフリ>は封印です。

「あんたといる所が私の家だわ。」

そしてジェルソミーナは、釈放されたザンパノに「あんたといる所が私の家だわ。」と宣言します。
これは決意表明。
自分の意思で「あんたの嫁になる」ということ。
買われた自分・・・・・・との決別。

この言葉の意味をザンパノが理解しなくてもいい。
高々と宣言する事に意味があるのです。
母からも愛されなかった、いつも逃げてた自分とはサヨナラです。
実際のところザンパノは、この言葉を雑音の如く聞き流してた。
彼が「ジェルソミーナといる所が自分の家だ」という事に気付くのはずっと後の事でした。
当たり前の日々ほどその大切さ・・・に気付きにくい。

「ザンパノ?なぜ私と一緒なの?私は不細工だし料理も何もできないのに。」

ザンパノと人生を共にする決意を固めたジェルソミーナ。
そこで、ふと疑問に思う。

ー彼はどう思ってるんだろうー

これまでは好きな事だけをし、苦労はあれど自分の為だけに生きればよかった。
母親はあんなだし、父もいないから<家族>というものがよく分からない。
家族って何だろう?
そもそも、自分はザンパノを愛してるが…ザンパノから「愛してる」とか言われたことも無い。
ザンパノから見れば、自分はまだ<金で買った女>でしかないかもしれない。
だから聞くんです。
「ザンパノ?なぜ私と一緒なの?私は不細工だし料理も何もできないのに。」と。
続けて「ザンパノ?少しは私を好き?」とも聞いてみる健気さにキュンとしてしまいます。

その時ザンパノは寝たふりをし、何も答えてくれませんでした。
何も答えが見つからなかったんだと思います。
孤独が長すぎたせいでが何なのか分からず、ただただ混乱してしまってたのでしょう。

「よこして。私がする。」

ここは重要なシーン。
ザンパノが不可抗力でイル・マットをあやめてしまい、ジェルソミーナは深く傷つきます。
芸もせず、食事もとらず、ボロボロになるまで自分を責め続けてしまう。
自分を愛するが故に犯罪を犯してしまったザンパノ。
口では「あんたが殺したのよ。」と言いつつ、自分を罰していく。

さすがに心配になってきたザンパノは「スープを飲むか?」と問いかけつつ味見し「何か足らんな..」とジェルソミーナの気を引きます。
すると・・・。

「よこして。私がする。」

そう言って、足らない調味料を足して見せるんです。
料理は出来ないはずなのに…!?
いや、実は出来る。
<出来ないフリ>をしてただけだった。
使用人みたいな感覚で押し付けられたくなかっただけ。
愛する人の為ならちゃんと作れる人だった。

一世一代のお芝居に涙が止まらない!

結局、ジェルソミーナは愛を貫くことにしました。
自分といれば、また彼は犯罪を犯してしまうかもしれない…。
そう思ったのでしょう。
病気で死にそうなフリをするんです。
そして、これは彼女にとって最後のお芝居。

これから成功したいし、生きていかなければならないザンパノは…断腸の思いで姿を消します。
横たわるジェルソミーナの横にそっとトランペットを置いて…。

彼女が横たわるのは、母や姉弟たちと暮らしてた場所とよく似た海岸沿い。
「ここがいいわ。」と言っていた。
もうひとつの「私の家」に似てたから、ここに骨をうずめる覚悟が出来たのでしょう。
愛するザンパノを送り出す覚悟も。
お芝居が大好きだったジェルソミーナが、愛する人の為にしてあげた一世一代のお芝居

しかしザンパノがそれに気づいたのは何年も経ってからでした。
<あのメロデイー>がザンパノを動かし、失った愛の大きさを気付かせる。
ザンパノを送り出したジェルソミーナはその後、お喋りを封印して無口になったらしい。
それは、愛するザンパノを守る為だったのでしょう。(自分なりの口封じ)
海岸で泣き崩れたザンパノ・・・もう切なすぎて涙が止まりませんでした。。

最後に・・・。

今回は、イタリアが誇るフェリーニの名作映画『道』についてたっぷり語ってしまいました。
名作すぎてレビューするのに勇気が要りましたが、ちゃんと書き留めておきたかったんです。
思い入れが強いせいで、だいぶかたよった考察になったかもしれませんがww
楽しんで読んでくれたら嬉しいです。

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