はじめに・・・。
今回は、映画ブログを始めた時から「絶対に書くべき!」と心に決めていた作品を紹介します。
1995年の映画『恋する惑星』(重慶森林, Chungking Express)です。
90年代に<香港ニューウェーブ>ブームを巻き起こした鬼才ウォン・カーウァイ(王家衛,Wong Kar Wai)監督の代表作。
あの頃の香港は、私にとって《心の楽園》でした。
台湾もそう。
悩み多き20代の私を奮起させ、夢の世界に連れてってくれる特別な場所。
活気に溢れた眠らない街。
そんな《楽園》をより魅惑的、アバンギャルドに魅せてくれたのがウォン・カーウァイ監督でした。
今観てもゾクッとくるカッコ良さがあり、色褪せない魅力に溢れた映画『恋する惑星』。
その魅力について、あれこれ語っていこうと思います。
映画『恋する惑星』あらすじ
「雑踏ですれ違う 見知らぬ人々の中に、将来の恋人がいるかもしれない・・・」

警官223号の若き刑事モウ。
ずっと追い続けてる犯人を見つけ、追いかけ走ってる時に一人の女性とすれ違う。
トレンチコートを着た金髪の女。
恋人にフラれて傷心中だったモウは、たまたま立ち寄ったバーで彼女と再会する。
お互い、あの時すれ違ったことを知らぬまま・・・。
一方、モウ行きつけのジャンクフード店で働くボーイッシュな店員フェイは、モウとすれ違った6時間後、警官番号633の刑事に一目惚れする。
ただすれ違った人が他人じゃなくなることがある…。
警官番号223、警官番号663、トレンチコートの女、フェイ。
導かれるようにすれ違い、それぞれの人生が交差していく…。
映画『恋する惑星』キャスト・登場人物の特徴
警官663号(演:トニー・レオン)

警官663号は、この街で夜警してるプレイボーイ。
CAの彼女もナンパでGETした。
警官の割には優柔不断で、物事をあまり深く考えない楽観主義者でもある。
演じてるのは、香港きっての演技派俳優トニー・レオン(梁朝偉,Tony Leung)。
ウォン・カーウァイ監督とは1990年の映画『欲望の翼』以来のタッグ。
天然過ぎる無頓着さとセクシーなジゴロ感…。
ちぐはぐな二面性をキッチュな質感に落とし込み、何とも魅力あるキャラに仕上げてる。
深みと温もりを感じる《目の演技》に注目です。
フェイ(演:フェイ・ウォン)

フェイは、自分のいとこが経営する露店で働く自由人。
いつか実現するであろうカリフォルニア旅行を夢見てお金を貯めています。
情熱の赴くままに身を任せてる感じ出てるけど、実は《天性の計算高さ》もあり、望みを確実なものとする術を知ってる賢い女性です。
フェイを演じてるのは、中国生まれで香港の歌姫のフェイ・ウォン(王菲,Faye Wong)。
香港では既に売れっ子シンガーだった彼女ですが、日本では『恋する惑星』を観て好きになったファンも多かった。
潔いセシル風ベリーショートが可愛すぎだし、甘やかな小鳥声もキュートで妙に心地いい。
コケティッシュって言葉は彼女の為にあるのかもしれない…。
強く掴んでないと、フワぁ~ってどっか飛んでっちゃいそうな危うい雰囲気もGOOD!でした。
警官223号 モウ(演:金城武)

警官223号 モウは、失恋で心病みかけてる駄々っ子青年。
優しくて愛情深い分、失った恋には未練タラタラ・・・。
寂しくて電話魔になったり、ランニングで体の水分を全部絞り出す(涙の分を残さない)という妙技を思いついたり...色々と謎行動を見せるけど、基本は愛嬌満点で可愛いヤツなのです。
モウを演じてるのは金城武。
独特の演技センスを持つ彼ですが、『恋する惑星』の頃ってちょうど映画デビューしたばっかりで初々しいんです。
でもそれが逆によくて、夢か現実か見まもうウォン・カーウァイ監督の世界観をより味わい深いものにしてる。
オープニングから登場するのは大正解でしたね!
金髪の女(トレンチコートの女)(演:ブリジット・リン)

金髪の女(トレンチコートの女)は、正体不明の麻薬ディーラー。
金髪カツラに大き目サングラスで表情は見えず、野郎どもを手際よく束ねるも何処となく心ここにあらず。
体もトレンチコートで見えず、唯一《ピンヒールの美脚》だけが女のプライドを物語ってる。
演じてるのは、日本では『ポリス・ストーリー/香港国際警察』で一躍有名人になった大女優ブリジット・リン(林青霞,Brigitte Lin)。(あー懐かしい…。)
すっごい美人女優なのに設定上隠れてないのは唇と足首だけ。
声色・仕草・間合いだけでミステリアスな儚さ~恋心までしっかり滲ませてるとこが流石!
この時の彼女、40歳。
ついつい目で追ってしまう《謎めき》の表情がタマらなく抒情的でした。
映画『恋する惑星』見どころ・感想
ウォン・カーウァイ&クリストファー・ドイルの最強タッグ!

香港映画界の鬼才といえばウォン・カーウァイ。
ウォン・カーウァイのバディ・カメラマンといえばクリストファー・ドイル(杜可風,Christopher Doyle)。
《香港ニューウェーブブーム》を巻き起こした頃の2人には、唯一無二の一心同体感がありました。
夢か誠か、楽園なのか地獄なのか…そんな刹那な世界観から描き出す生々しい人間模様。
ファンタジーなんかじゃなく、リアルな現実を生きる主人公たち。
そして、ウォン・カーウァイ監督が思い描くこの情景をリアルに映像化したドイルのカメラワーク。
手持ちカメラで人物を追い、水の動きや光の反射を味方につけ、極限まで情景の一致を目指す!
カッコ良かったし、すっごく斬新でしたね。
まさにあの頃、2人は香港映画界の最強タッグでした。
イージーな世界観が似合いすぎのフェイ・ウォンにグッとくる

香港の熱い夜。
ひしめきすれ違う人々、路地に染み入るネオンの光、幾つもの言語が飛び交う元気な夜。
お気に入りの音楽に身を委ね、露店バイトに精を出す不思議ちゃん系女子、フェイ。
街のざわめきを搔き消すほどの大音量で「夢のカリフォルニア」を流し、ダンス交じりに接客してる。そんなイージーな世界観が似合いすぎのフェイ・ウォンにグッとくる。
街も店もうるさいから大声出さないと会話が聞こえない。
せめて音楽を消せば接客しやすいんだろうけど、自分のアイデンティティも譲れない。
だから大声で接客してるww。
フェイ・ウォンの甲高い小鳥声が街に響き渡る。
雑多な街の美しさ、リアルな空々しさがタマらなくカッコいいのです。
大女優ブリジット・リンの《贅沢使い》が斬新!
先程キャスト紹介でも力説しましたが、ブリジット・リンの《贅沢使い》が斬新すぎます!
あんな大女優をキャスティングしておきながら、その美貌を極限まで隠し通したのは何故か!?
サングラスに金髪カツラ、きっちり着込んだトレンチコートが肉体的な美を覆い隠す。

当時は私も若くて「この役、ブリジット・リン使った意味ある?」って不思議がってたんだけど、今観れば分かる。
生まれ持った美しさに固執せず、それ抜きで勝負できる本物の女優だからキャスティングされた。
口元しか見えない顔から滲ませる心の葛藤、女らしさ。
華奢な足首が語る無意識なか弱さと情念。
隠すほどにスクリーン映えしてくれるミステリアスさ。
ウォン・カーウァイが大女優に求めたもの…。
観る度に「こーゆーことか。」と感じ入ってしまいます。
トニー・レオン演じる警官663号の《独り言》が独創的過ぎる件

トニー・レオン演じる663号の《独り言》が独創的過ぎるのも、本作が魅力的である要因のひとつ。
CAの美人彼女が去った部屋でひとり、残された生活用品たちと向き合い話しかけていく。
●使い倒して小さくなった石鹸には「もっと自分に自信を持て。」
●雨で濡れたタオルには「泣くなよって言ったのに。強く生きろ。本当に情けない姿だ。」
●ぬいぐるみには「何か言え。彼女を許せ。戻ってくるさ。」
●彼女が忘れてったシャツには「寂しいか?少しの辛抱だよ。暖かくしてやる。」とアイロン掛け。
でもフェイが内緒で部屋に侵入し、模様替えしていったことで独り言がポジティブに変わっていく。
●新しくなった石鹸には「どうしたんだ。なぜこんなに丸々と太った?やけになるな。」
●新調された柔らかタオルには「お前もずいぶん変わった。彼女無しでもしっかり生きろ。」
●新しいぬいぐるみに「前はマヌケに見えたけど、可愛く思えてきた。」
●フェイが隠したCAユニフォームを見つけ出し「隠れてないで現実に立ち向かえ。」
無頓着な性格がゆえ、何にも気付かないまま対話してる。
その姿がトニー・レオンの柔和なセクシーさと相まって、非常に愛くるしくハートウォーミング。
クスクス笑ってしまう魅力に溢れています。
アジアンポップス人気の火付け役となったフェイ・ウォンの歌

香港では売れっ子シンガーだったフェイ・ウォンが歌う劇中歌「夢中人」と「白昼夢」。
どちらもカバー曲なんですが、あの独特な小鳥声でもって魅惑的に歌い上げています。
『恋する惑星』が世界的に大ヒットし、クエンティン・タランティーノなど著名な映画人が大絶賛する中、フェイ・ウォンの歌声にも注目が集まることに…。
アジアン・ポップス人気の火付け役となり、香港の歌姫→アジアを代表する歌姫へと大躍進したんです。
日本でも「ファイナルファンタジー」やドラマの主題歌を歌い、シンガーとしての人気を集めるようになりました。
世界観にぴったりな名曲『夢のカリフォルニア』が旅情を掻き立てる
フェイ・ウォンの主題歌と共に、忘れちゃいけないのがママス&パパスの名曲「夢のカリフォルニア」。
フェイが接客中に流してるやつね。
めちゃめちゃ合うんですよね、ウォン・カーウァイの世界観に。
感傷的でありつつも希望に満ち、心のどこかが浄化されていく感じ。。

ママス&パパスはフォークロックの先駆者であり、平和を求めるヒッピー文化の象徴でもあった。
《LOVE&PEACE》ですね。
どこか退廃的な風情もあり、663号&フェイの恋物語にぴったりハマるんです。
そして旅情を掻き立てられる。
当時、すっかり感化されちゃった私は…香港に飛びましたww。
(ミーハーの極み。)
あの長いエスカレーターで撮った写真は今でも宝物です。
ジュークBOX・缶詰・ハイヒールなど…モチーフ使いがオシャレ!
『恋する惑星』には、いくつもの粋なモチーフが登場します。
警官663号が部屋で話しかける生活用品もそうですし、長いエスカレーターもそう。
トレンチコートの女がお気に入りの曲を流すジュークBOXもいい味出してました。
男の移り気を仄めかす意味深アイテムになってましたね。
あと、彼女が連夜走り回って泥だらけになったピンヒールも良かった。
上品なピンヒール。女のプライド。
しかし彼女にだって癒されたい夜はある。
寝たふりで束の間の安らぎに身を委ねる中、気付かないふりの刑事モウが綺麗に泥を落としてあげる。
そんな刑事モウが買い漁ってた缶詰もオシャレだった。
どんなものにも《賞味期限切れ》があるけれど、恋にも賞味期限はある。
同じ日付が刻印された缶詰を買い集める姿、食べきる姿が愛おしい。。
他にも沢山のお洒落モチーフがあり、その時々で様々な解釈が楽しめるのも本作の魅力です。
店主のおじさんがいい味すぎる

最後に・・・絶対気になるあの方。
露店の店主!
フェイのいとこで「警官663号編」と「警官223号 モウ編」どっちにも登場する。
あのおじさん、いい味すぎます。
すれ違う人々を結び付ける《伝書鳩》的な存在であり、昔よくいた世話焼きおじさん。
絶妙に温かいんです。
オトボケ顔でいい仕事する。
おじさんを演じてるのは、香港の俳優 陳錦泉(ジン・クアン・チェン)。
あまり取り上げられないけど、実は年に5~6本くらいの映画に出演してる大ベテラン。
現在はカメラマンをしてるけど、つい最近まで映画に出演してました。
日本でヒットした作品にも結構出てて、ウォン・カーウァイ監督、マギー・チャン主演の『いますぐ抱きしめたい』や、ツイ・ハーク監督、ジェット・リー&ドニー・イェン主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』なんかにも登場シーンがありました。
「何かで観たぞ!?」系な俳優さんですね。
因みに『恋する惑星』は、現在(2022年8月時点)U-NEXTで配信中です。↓
<本ページの情報は2022年7月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにて
ご確認ください。>


最後に・・・
今回は、ずっと愛し続けてきた映画『恋する惑星』を紹介させて頂きました。
感無量・・・。
何だかんだで機を逃してきましたが、レビュー書けて良かった!
着手するにあたり久々に鑑賞しましたが…(何度観るんだw)それでも新たな解釈が生まれたりして、作品の奥深さを感じました。
やっぱり良い映画は色褪せませんね。

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